エラストマー AR-860C 射出成形事例

1年半ほど前に商品企画段階よりお声をかけて頂き、製品形状や金型製作・量産化へのアドバイスをさせて頂き商品化された製品があります。すでに量産して順調に販売されており嬉しい限りです。(申し訳ありませんが、守秘義務がありますのでどんな商品かは割愛させて頂きます。)
この商品に使われているのがAR-860Cというエラストマー。
このAR-860Cはアロン化成㈱の製造しているエラストマーARシリーズの食品・医療グレードの標準品に含まれるものです。
射出成形・押し出し成形用でナチュラル色は半透明。ちなみに1袋20㎏入りです。ご注意を。(通常、熱可塑性原料は1袋25㎏が基本)

設計時から〝柔らかさ″に考慮が必要。

今回の成形品は小さな製品でした。全体的に肉厚も薄く、細いリブもある。
こういう製品ですとエラストマーの特徴である〝柔らかい”は金型からの離型時などに問題を生じる可能性が考えられたので、金型設計時には細心の注意を払いました。
たとえばエジェクターピン。これは可能な限り太いものを設置しました。細いものですと突き出し時に製品を突き破る可能性があるのを考慮しました。
その外はリブの抜け方やRの取り方など全体的に離型に気を使った金型設計をしました。

開封したらダンゴ状態。

材料袋を開封してビックリしました。まずはペレットが大きく通常のペレットの倍くらい。なんとそのペレットが大きなダンゴ状に固まっていました。エラストマーだから当然なのですがペレット自体が柔らかく、ほんのり粘りがある。この粘りが起因して材料の自重や保管時に積み上げられたりする際にかかる外的な圧力でペレット同士がくっついてしまうんですね。こんなダンゴ状態では成形機のホッパー口にブリッジしてしまいフィードしないのではないかと焦りました。とりあえず手でほぐしてからホッパーへ投入したら上手くフィードしていきましたので、ひと安心しました。量産時も手でほぐしての投入をしています。現在このAR-860Cにて成形している製品は、10㎏もホッパーへ投入すれば1日成形できてしまうような小さなものですので自重でダンゴ状態になることもなく順調です。
ある程度の重量の成形品を生産する際にはホッパー内での荷重は考慮する必要がありそうですね。

実際に成形してみました。

実際に成形してみた感想は、思ったよりも良好でホッとしました。成形前はいくつかの不安要素がありました。例えば肉薄品であること。今回の製品が肉薄な成形品であるため、ゲートから一番遠い部分まで流れるか。流すことを目的にした場合に発生しやすい、バリや過充填による白化、ガス焼け、材料の焼けなどが出ないか心配していました。これらの問題は金型の作り込みの段階から予想できたので、商品設計・金型設計に落とし込んでいたのでうまく回避できており問題なし。強いて言えば、ガス焼けというよりかウェルドと判断できる筋が入りましたがガスベント設置、成形条件で回避できました。
懸念材料でもあったエジェクターピンによる製品破りもなく、上手く離型しました。これは太めのエジェクターピンが功を奏したって感じがありました。材料のダンゴ状態を含め他にも懸念材料が多かったこの案件ですが、上手く量産化させることが出来てよかったです。

あらためて材質の特性まで考慮することは大切だな~と思う事例でした。
そのためには、いかに形のない状態のときに、どこまで量産状態をリアルにイメージできるかですね。